夢の国といえばディズニーランド、そのディズニーランドを運営しているオリエンタルランドの資金繰りについて本日はお話していこうと思います。
先日オリエンタルランドは、新型コロナウイルス感染症の影響で業績が悪化していることから、およそ4,000人いる正社員と嘱託社員を対象に今年の冬のボーナスを7割削減することを発表しました。
さらにコロナ以降イベントが軒並み中止となったため、契約社員のダンサーや出演者は業務が激減しています。
オリエンタルランドは彼らに対して、窓口業務に移るか、または手当を受け取って退職をするか、それとも契約期間を満了するか選択するように伝えたといいます。
その対象となるのは約1,000人。これはオリエンタルランド始まって以来のかなりの大規模なリストラと配置転換と言えます。
流動比率
これまでは、オリエンタルランドはお金を払う余裕がかなりある企業として認識されてきました。
ここで【流動比率】というものについて説明しておきましょう。
流動比率とは、企業が1年以内に現金化できる【流動資産】がどの程度確保されているかを示す指標のことです。
流動資産 ÷ 流動負債 × 100 = 流動比率
と計算することができます。
同社の流動比率は2019年3月末の時点で 285%。一般的に理想とされているのは 200%ですのでこれをかなり大きく上回っていたことがおわかりいただけるかと思います。
つまり、コロナ以前の状況では、同社はかなりの支払い能力を持っていたのです。
中でも注目すべき点はキャッシュの分厚さです。
同社の2019年3月末時点の現金及び預金残高は3,775億円。
コロナの影響が出る前の費用を見てみると、売上原価と販売費および一般管理費(=販管費)の合計から減価償却費を除いた金額は約3,580億円となっています。
つまり、オリエンタルランドは一年間に出ていくお金が約3,580億円に対して、現金及び預金として3,670億円を持っている、ということになります。
オリエンタルランドが一年間売上が0円でもお金がなくならない、と言われる理由がまさにこれなのです。
現在の財務状況
それならばなぜ、オリエンタルランドは大規模な人件費カットを決断したのでしょうか。
具体的に同社の財務状況を見てみましょう。
休園が響いた2020年4月~6月期の連結最終損益は248億円の赤字でした。
7月1日に営業を再開したものの、入場制限は続いており、また、2021年3月までに予定していた大規模なイベントについてもほぼ中止することを公表しています。
直近の現金及び預金残高の推移は2019年3月3,775億円、2020年3月2,611億円(▲1,160億円 30%減少)、2020年6月1,780億円(▲831億円 32%減少)と、2019年3月に比べて急激に減少していることがわかります。
1年3ヶ月で現金が約47%(1,995億円)減少しているということになります。
特に直近の2020年3月~6月の3ヶ月間は、閉園も余儀なくされていたため、831億円の減少です。
現在でも50%以下の入場者数での運営を行うなど、通常通りの営業が難しい状況が続いております。
今後の方針
では、オリエンタルランドの体力はあとどれくらい残っているのでしょうか。
仮にキャッシュの減少が直近3ヶ月の減少額である831億円の7割掛けで減少すると試算してみましょう。
831億円 + (581億円 × 3四半期)=2,576億円
この先何もしなければ年間2,576億円のキャッシュが減少していく、ということになるのです。
このままではキャッシュが底をついてしまいます。
そこで今回目を付けたのが人件費だったというわけなのです。
通常であれば、人件費に切り込むのは最後の手段とする企業が多いかと思います。
この決断をしなければならなかったオリエンタルランドがいかに差し迫った状況であるかということを示しています。
ところが同社は実は最悪のシナリオを想定して動いているとも考えられます。
その根拠となるのが社債発行です。9月10日に総額1,000億円の社債の発行条件を決めているのです。
同社としては1998年以来、22年ぶりの大型発行となります。調達資金は2024年3月期に完成予定のパーク拡張工事などの投資に充てる予定になっています。
また、銀行からの融資も確保しています。
銀行があらかじめ設定した金額の上限内でいつでもお金を借りられる融資枠(コミットメントライン)の契約を結んでいたのです。
本来オリエンタルランドとしては投資資金を営業キャッシュフローでまかなう計画でしたが、入園者数の制限で収入が減少しています。
さらにコロナの長期化も見据えて、5月には銀行との間で2,000億円の融資枠を設けています。
参照:週刊SPA!
まとめ
これらのことから、社債の発行や融資を受ける前に、最悪のシナリオを想定した中で本業での収益改善を優先するために苦渋の決断をしたと言えるのではないかと思います。
会社を安定して経営していくためには経営者が自社の流動比率がどうなっているのか、また売上が減少した場合にキャッシュがどのくらいの期間もつのかを毎月数字を見て把握し、常に先手を打つことが大切なのです。