2020年6月1日、『パワハラ防止法』が施行されました(中小企業は2022年4月1日から)。
今回はこちらについて解説させていただきたいと思います。
増加するパワハラ問題
近年、パワハラについての相談件数は右肩上がりで増えています。
都道府県労働局に寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は、2008年に3万2000件にとどまっていたものが、2018年には8万件を超えました。
こうした背景から企業にパワハラ対策を義務付ける『パワハラ防止法』が施行されることになったのです。
事業主には以下の項目が義務付けられています。
企業の新たな義務
①企業(事業主)の方針等の明確化及びその周知・啓発
パワハラを行った者に対して厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等に規定することも必要になります。
②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の準備
パワハラ相談への対応窓口をあらかじめ定め、従業員に周知しなければなりません。
※窓口については外部機関への委託も可能です。
③パワハラが発生した場合の迅速かつ適切な対応
事前の対応はもちろんですが、万が一起こってしまった場合、事後対応も適切に行わなければなりません。
パワハラに係る相談の申し出があった場合は、相談者に配慮しながら事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があります。
パワハラが実際にあったと確認できたら速やかに、被害者に十分配慮した措置を取らなければなりません。
→行為者に謝罪をさせるなど当事者の関係改善をサポートしたり、行為者と被害者の距離を置くなどの対策が必要です。
→就業規則で定められたパワハラに関する規定に基づき、行為者に対して必要な懲戒、その他の措置を講じます。
④併せて講ずべき措置
・相談者・行為者のプライバシーの保護
・不利益な取り扱いの禁止
・その他ハラスメントの相談窓口と一体的、かつ一元的に相談に応じる体制の整備
以上の項目が義務付けられることになります。
パワハラ相談を放置すると…
パワハラ相談が急増する一方で、今後パワハラを放置する企業は将来経営が立ち行かなくなる恐れがあると言えます。パワハラを放置することで、離職者や休職者が増え職場の生産性が下がるなど、大きな損失が想定されます。
パワハラ対策は経営上の重要課題である との認識が必要です。
パワハラ発覚後に想定されるリスク
・被害者から損害賠償金を請求され、世間に広まれば社会的な信用を失う
・人材の確保が困難に
→人材流出による離職率の上昇
万が一管理者が訴えられた場合は、事業の中核人材を失う事にも。
負の情報で採用難に陥り、新しい人材確保が困難に。
・転職掲示板への書き込み
どんなに採用コストをかけて多くの求人広告を出していても、一度「パワハラ」「ブラック企業」などと掲示板に書き込まれると、人は来なくなります。
このような事態は経営者にとって大きなリスクとなることが一目瞭然かと思います。
一方でパワハラは、セクハラやマタハラよりも予防や啓発が難しいのが現状です。
「パワハラのアウトとセーフがよくわからない」
「パワハラと言われそうで、指導ができない」
という管理職の声もよく聞かれます。
パワハラは業務指導の延長で起こるため、どこまでが指導でどこからがパワハラなのか、線引きが曖昧といえます。
またパワハラ行為者のほとんどが無自覚であり、本人は熱心に「指導」しているつもりなので、自分で気づくことができません。
無自覚ということは、社内でパワハラ研修を行ったとしても、どうしても他人事と思ってしまい、実はほとんど効果を上げていないのが実情なのです。
ではここで、そもそもパワハラとは具体的にどのような行為があたるのか、厚生労働省が6つに分類し、典型例を示しているのでご紹介いたします。
パワハラの具体例
a.身体的な攻撃
殴る蹴る、物を投げつける等。
b.精神的な攻撃
人格を否定する暴言、他の従業員の前で罵倒する、長時間に渡って非難し続ける等
c.人間関係からの切り離し
別室への隔離、集団無視、他の従業員との接触や協力の禁止等
d.過大な要求
新卒者への教育する前の過大なノルマの要求、私的な雑用の強要、終業間際の過大な仕事の押し付け等
e.過小な要求
役職名に見合わない程度の低い業務をさせる、嫌がらせで仕事を与えない等
f.個への侵害
個人用の携帯を覗き見る、センシティブな個人情報の暴露、家族や恋人のことを執拗に聞く等
※厚生労働省のハラスメント対策サイト「あかるい職場の応援団」にわかりやすく紹介されています。他の企業の好取組みも多数掲載されているので、どのように社内体制を構築するのか是非参考にしてみてください!
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
※厚生労働省ホームページより
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000635337.pdf
まとめ
人手不足の時代においてパワハラは事業継続に関わる重大なリスクとなります。
ただし、ここで一度パワハラについて社内全体で取り組み、体制整備することで良い方向に進むことももちろん可能です。
今回施行されたパワハラ防止法は、パワハラのないより良い職場環境を作るための法律です。
法の趣旨や指針が示す内容を理解し実行するとともに、職場ではお互いが思いやりの心をもってコミュニケーションを取ることも重要なことになります。
指導する側は相手の成長を促すよう努め、また、指導される側も適切な指導かどうかを見極める冷静さが必要となることでしょう。
文:キャッシュフロー経営講座 認定講師 渡辺 幸信