新型コロナウイルスの影響を受けた倒産は、8月末時点で全国で477件確認されています。
負債総額は2,521億円となっており、日本経済に与えているインパクトも非常に大きく、また、今後も倒産件数は更に増えていくであろうことが見込まれています。
そんな状況の中でも業績を伸ばしている企業について、今回はご紹介したいと思います。
西松屋
その企業とはズバリ皆さんご存知の【西松屋】です!
私も1歳の子供がおりますので、普段から大変お世話になっていますが、実はとてつもない高収益企業であることをご存知でしたでしょうか。
生産性の面で見ると、西松屋の20年2月期の正社員は696人。パートタイム社員は3,993人。
実はこの数、16年度からほぼ変わっていないのです。
しかも、正社員1人当たりの売上で見ると、なんと2億円になるのです!
さらに同社では、一般的な衣料品小売業でやらなければならない作業を極力カットしているため、店舗スタッフの負荷が少ないことでも有名です。
私も、店舗で買い物中に接客を受けた経験は一度もありません。それは、同社には「過剰な接客をしない」というルールがあるからです。
お客様に話しかけて売上を増やしなさい、というマニュアルもありません。
それは売上を最大値まで上げることにはつながらないかもしれませんが、言い換えれば、最低限の売上は接客しなくても確保できる仕組みになっている、ともいえるのです。
作業の効率化と同社の工夫
例えば、高い位置にある商品をお客様が自分で取れるよう、先がY字になっている「商品取り棒」を設置するなどの工夫で作業を効率化しています。
また、西松屋では店舗を全国統一のレイアウトにしているため、兵庫県にある本社で売り場を一元管理できます。
本社の社員が各店舗に直接行かなくとも、店内画像を確認するだけで、店内の状況を確認し、売り場変更などの指示が出せるような体制になっているのです。
さらに、本部の在庫管理責任者が全店の「値下げ」「商品の店舗間移動」「返品の指示」「棚割り」まで全てを決定します。
これらの仕組みによって、各店舗では在庫管理の責任者を置かなくて済むわけですから、結果的に人件費が抑えられ、同時に店舗の質を保つことができるのです。
この売り場管理のシステムによって、全国約1,000店舗をわずか数人だけで管理できるようにしている点が、同社のガラガラでも儲かる仕組みを支えています。
※ガラガラ経営・・・無理な繁盛店舗を目指さない。混雑を作らず、いつも店内をガラガラにしておく。という同社のモットー
この努力は何のためか
同社のこうした努力は一体何のためにしているのか。
それは、魅力的な商品開発のため、と断言しても良いでしょう。
同社が徹底的に店舗にかかるムダを省き、ロスをなくし、余分な経費を削っているのは、その分をより魅力的な商品開発につなげていきたいと考えているからではないでしょうか。
同社がターゲットとしているのは「子育て世帯」です。
彼らにとって一番の課題は何かを突き詰めた結果、子育て世帯の可処分所得が下がり続けていることに着目し、焦点を絞った戦略を取っていると言えます。
そして、私たちのキャッシュフロー経営講座でもお伝えしている、最も重要な利益→自由になるお金=売上総利益、についてですが2000年には29.1%だった粗利率を2020年度には34.8%にまで高めています。
西松屋はターゲット顧客を「低価格でいいものであれば買ってくれるはずだ」と捉えて経営をしているのだと思います。
日本には年間で86万人(19年度)の出生数があります。
14歳までを同社がターゲットとする市場としても、約1,500万人の子供市場があります。
西松屋は10万人の商圏には原則1店舗出すと決めています。
子供服のマーケットサイズ(年間1人当たり消費支出金額)は約7,000円。
玩具や消耗品、靴などの周辺商品を含めると同社が取り扱う商品のマーケットサイズは1万円程度となります。
商圏内シェアを算出
では、西松屋の商圏内シェアを算出してみます。
(1)商圏内総需要額=子供関連マーケットサイズ×商圏人口=1万円×10万人=10億円
(2)西松屋の1店舗当たり売上=1.42億円
(3)西松屋の商圏内シェア=(2) ÷ (1)=1.42億円 ÷ 10億円=14.2%
つまり、西松屋の1店舗当たりの売上は小さいのですが、たくさんの店舗を出すことによって、全国市場では15%のシェアを確保することが可能になっているのです。
日本全国の10万人以上の商圏に1店舗ずつ出店すれば、子供関連市場の15%のシェア(優位シェア)を取ることが可能で、会社としても安定的な数字を確保できます。
これが、コロナ禍かつ縮小市場でも儲かる企業のマーケティング戦略の論理です。
まとめ
的確にニーズを捉え、そしてそのニーズに合った商品開発を徹底的に行い、更にコストを抑えた店舗展開やオペレーションを実現する。
その上で確保した利益でまた子育て世代の課題を解決する商品を開発する。
そういった安定した経営を平時から継続してこられたことが、有事の時にも会社を成長させることができている要因なのではないかと思います。
こんな時だからこそ、自らのビジネスについて今一度考える機会としたいですね。
文:キャッシュフロー経営講座 認定講師 渡辺 幸信